網膜剥離とは
網膜がはがれてしまうのが網膜剥離です。
外傷以外でも若い人にも起きる網膜はく離
網膜はく離と言うとボクシングなどの格闘技を思い浮かべる人も多いですよね。たしかにボクサーで網膜はく離で引退された人は少なくありません。最近では元世界2階級王者、亀田大毅選手が2015年に引退したのも網膜はく離が原因でした。
しかし、網膜はく離の原因は、外傷などのダメージだけでなく、若い人から高齢者まで幅広い年代に起こる身近な目の病気なので、注意が必要です。
網膜はく離は誰にでも起こりうる病気 加齢や近視などが危険因子
網膜剥離とは文字通り網膜が剥がれる病気です。
網膜が剥がれる、とは?
網膜は映画のスクリーンに相当する厚さ0.2ミリの膜状の組織です。眼底一面に広がっています。網膜の断面を拡大して見ると、網膜の一番下には「網膜色素上皮」と呼ばれる細胞が並んでいます。その上に「視細胞」という光を感知してものを見るための細胞が並んでいます。この視細胞には血管がないため、網膜の下にある「脈絡膜」の血管から拡散される酸素や栄養を受け取っています。
この「視細胞と網膜色素上皮の間が、何らかの原因で剥がれてしまった状態」が網膜剥離です。剥がれた部分の視細胞には酸素が行き届かなくなるため、視細胞の機能が低下してしまいます。
網膜剥離の二つのタイプ
網膜はく離には大きく2種類あります。
- 網膜に穴があく、という裂孔原生網膜剥離
- 穴は開かない非裂孔原生網膜剥離
非裂孔原生網膜剥離は、糖尿病網膜症や目の腫瘍自己免疫疾患など、他の病気が背景にあって発症します。
一方、網膜はく離で最も多いのは、網膜に穴が空く裂孔原生網膜剥離というもの。大体1万人に1人ぐらいの割合で発症するといわれています。
一般的には「網膜剥離」と言う場合には、この裂孔原生網膜剥離さします。
加齢が原因でおきる網膜はく離のしくみ
人間の眼球は、硝子体という透明なゲル状の組織で中が満たされています。若い時は全体的にこのゲルがしっかりとしていますが、年齢とともに一部がサラサラの液体に変化してしまい、ゲルの部分と液体の部分に分離して行きます。やがて液体部分がどんどん大きくなって、目の奥の方に溜まっていきます。その一方でゲルの部分は縮んで行きます。
ここまでは加齢に伴う生理的な変化で病的なものではありません。大体50から60歳ぐらいからこの変化が起きてきます。
しかし、硝子体に網膜と癒着した部分があると、ゲルの部分が縮む際に、網膜も一緒に引っ張ってきてしまい、結果、網膜に穴が開いてしまうことがあります。これが網膜裂孔という状態になります。この穴に、液体になった硝子体の部分が流れ込んでしまいますと、網膜がはがれて網膜剥離は起きてしまいます。
近視が原因でおきる網膜はく離のしくみ
近視では目の加齢変化が早く進むということが知られています。硝子体の変化ももっと早い年齢から起きてくることが知られています。そして、このような硝子体の変化に伴って、若いうちから網膜はく離が生じる危険が出てきます。近視が原因の網膜剥離は、二十代から三十代といった若い世代にも多く見られます。
近視がある人は近視がない人に比べて20倍以上、網膜剥離になりやすいとも報告されています
アトピー性皮膚炎が原因になることもある
裂孔原生網膜剥離はアトピー性皮膚炎が原因になることもあります。アトピー性皮膚炎で顔に酷い湿疹があると、慢性的に目の周りをかいてしまうことがあります。そうすると、目をこする刺激で網膜に穴が開いてしまって網膜剥離を起こすと考えられています。
ボクシングなど目の打撲などの原因や遺伝の関係性
ボクシングやボールがぶつかった、など、目の打撲や白内障や緑内障など、目の手術によって発症することがあります。また家族に網膜剥離を発症した人がいるという場合も、リスクが高まることが知られています。
網膜はく離に気づくには 網膜はく離の症状
網膜には痛みを感じる神経は無いため、痛みとして気づくことはありません。しかし、初期には見える範囲=視界に小さなゴミがたくさん浮いているといった飛蚊症(ひぶんしょう)という症状や、実際には光っていないにも関わらずピカッと視野の隅に光が走るような光視症(こうししょう)といった症状が現れることがあります。
飛蚊症とは
飛蚊症の多くは、加齢とともに硝子体の中に塊が浮いてきて、それが小さなゴミのように見える現象です。近視が強い方は、若くてもこの飛蚊症があることが多いです。多くの場合は生理的な変化で心配はいりませんが、網膜に穴が開いて、硝子体の中に色素がまき散らかされた、り出血が広がったりしてしまうと、目の前には急にススが広がったように見えます。「急に飛蚊症が増えた」とか、あるいは「急に大きな影のようなものが見えるようになった」というような変化があった場合には、網膜剥離の可能性があるので、念のため眼科を受診されるのがおすすめです。
光視症とは
網膜がはがれたり、穴が空いた時の物理的な刺激が、網膜から視神経に伝わり、それを脳が「光の刺激」として捉えてしまうことがあります。そのため、「光がないのに光が見える」というような現象が起きます。
網膜はく離が進行するとどうなる?
網膜剥離が進行すると、一度剥がれてしまった網膜は、光が当たっても光を感じることができなくなるたえ、「その部分の視野が欠ける」という現象が起きます。通常、網膜はく離は網膜の端の方から始まることが多いため、「視野の上または下の方からだんだん欠けてくる」という方が多いです。
さらに進行して、網膜の中心にある黄斑部というところまで剥離が及ぶと、「視野のほとんどが欠けてしまい、一部分しか見えなくなる」という状態になります。黄斑部まで剥がれる、「歪んで見える」ということもあり、そのまま放置していくと完全に見えない「失明」に至ります。
視野が欠けるという症状は、硝子体の中に液体に変化した部分が多い年代の方の場合、網膜が穴から流れ込む水の量も多くなりますので、一気に剥離が進行することが多く、2ー3日でどんどん一気に網膜が進行してしまうということもあります。
一方、若い方で近視が原因で起きてる場合には、それほど液体の部分がまだ硝子体に多くないため、ゆっくりと何ヶ月かかけて進行してくるということもあります。
ただし、若い方でも、目を打撲して網膜不良を起こしたりした場合には、症状が急に進むことがありますので、早急な対応が必要と考えられます。
治療を早めに行うことで回復の度合いも高くなる
残念ながら、一度はがれた網膜が自然に戻るということはほとんどありません。きるだけ早く気づいて治療を受けるということが大切です。しかし、治療が早ければ早いほど、視細胞の回復の可能性もありますし、視力への影響は少なくなります。
外科的治療法は2種類
若い方の場合は、強膜バックリング術という手術で対応します。中高年の場合は硝子体手術という方法が第一選択です。
強膜バックリング術
強膜バックリング術は、眼球の一番外側にある強膜の白目の部分に、シリコン製のスポンジを縫い付けるという手術です。網シリコンスポンジで外側からぐっと押しつけることで、はがれた網膜を元の位置にくっつけて穴を塞ぎます。 ベルトをバックルで止めるような方法ですので、バックリング術と呼ばれています。眼球に縫い付けて、その後はそのままずっと付けたままになります。術後、最初は押されるような感じはありますが、傷が落ち着いてくればほとんどそういう痛みはないようです。
硝子体手術
硝子体手術は、白目に3ー4箇所小さな穴を開けて、そこから手術器具を目の中に挿入し、網膜と硝子体の癒着を直接切り離して行きます。その後、白目の中に特殊なガスやシリコンオイルなどを注入し、それらの圧力で剥がれた網膜を内側から元の位置に戻して行きます。
手術後、患者はトイレと食事の時以外、うつ伏せの姿勢で1ー2週間過ごす必要があります。ガスやオイルは、水よりも軽く上に行く性質があるため、網膜の裂肛が埋まるまで、うつぶせの状態でいる必要があります。かなり大変ですが、再発させないように術後のうつ伏せが重要です。
入院期間は医療機関や患者さんの状態によっても異なります。近年、硝子体手術の器具が非常に進行してたこともあり、硝子体手術の場合、だいたい七日間前後の入院になります。退院後も目の状態が落ち着くまでは一週間程度自宅で療養していただくことが多いようです。また、そのあとも治癒が完全に確認できるまで、3ヶ月ぐらい注意深く通院する必要があります。
現在手術の成績は非常に良くなっており、90%以上のケースで網膜剥離は直すことができるようになっています。剥がれた部分が小さく、また剥がれている期間が短いほど、術後に良い視力を得られる可能性が高いです。したがって、できるだけ早く受診して頂いて必要な治療を受けるのがおすすめです。
こちらは書籍やネット、テレビなどの情報をまとめたものです。参考までに